卵子提供を検討する方
1.妊娠・出産をめぐるこころとからだ -妊娠中に経験し得ること-
卵子提供による妊娠にかかわらず、妊娠は女性の身体にも心にも大きな変化をもたらします。妊娠初期には、つわりや倦怠感などの体調不良を経験することがあり、思うように日常生活を送れない時期が続く場合もあります。
国内外の研究では、卵子提供によって妊娠した場合、こうした身体的変化に加えて、妊娠中にこころの揺れを感じる方もいることが報告されています。たとえば、「本当にこの選択でよかったのだろうか」「子どもを十分に愛せるだろうか」「遺伝的なつながりがないことをどのように受け止めればよいのか」といった思いが浮かぶことがあるようです。
これらの感情は特別なものではなく、妊娠という大きな出来事に向き合う過程で生じる自然な反応と考えられています。卵子提供に限らず、妊娠中は将来への不安などが強まりやすい時期でもあります。
実際には、出産後に子どものお世話を日々重ねるなかで、こうした不安が次第に変化していくことも多いと報告されています。一方で、育児の疲れや思うようにいかない出来事が重なったときに、「卵子提供だからではないか」と意味づけてしまうこともあるようです。
しかし、子育ての困難や戸惑いはどの家族にも起こり得るものであり、卵子提供であることだけで説明できるものではありません。親子関係の質は、日々の関わりや安心できる関係性の積み重ねによって築かれていくことが研究でも示されています。
妊娠中にこころの揺れを感じることは、必ずしも将来の親子関係を決定づけるものではありません。大切なのは、その感情を否定せず、パートナーをはじめ、周産期ケアやカウンセリングの専門家などと共有できる環境をもつこととされています。
妊娠は、身体の変化だけでなく、家族としての意味づけを深めていく時間でもあります。こうした過程をあらかじめ知っておくことは、不安を和らげる一助になるかもしれません。
*卵子提供後の妊娠中の心理状態および親子関係に関する主な参考文献
・Sine Berntsen et al.(2021)
Pregnancy outcomes following oocyte donation, Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynecology.
・Imrie, S., Jadva, V., & Golombok, S. (2020).
Families created through egg donation: Mother–child relationship and child psychological adjustment, Human Reproduction.
・Susan Imrie, Vasanti Jadva, and Susan Golombok (2020)
“Making the Child Mine”: Mothers’ Thoughts and Feelings About the
Mother–Infant Relationship in Egg Donation Families, Journal of Family Psychology.
・Susan Golombok,(2020), We Are Family:The Modern Transformation of Parents and Children(書籍)
・S Imrie , V Jadva , S Golombok (2019)
Psychological well-being of identity-release egg donation parents with infants, Human Reprod.
2.周産期リスク -妊娠は年齢にかかわらず一定のリスクが伴います-
妊娠・出産は、年齢にかかわらず、一定の医学的リスクを伴うものです。多くの場合は適切な周産期管理により安全に経過しますが、母体や胎児に重篤な合併症が生じる可能性があることも知られています。
一方で、医学的には、母体の年齢が高くなるほど、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開率の上昇、早産などのリスクが高まることが国内外の研究で報告されています。超高齢妊娠では、母体の健康状態によっては生命に関わる重篤な合併症が生じることも報告されています。
医学的リスクについて知ることは、妊娠を否定するためではなく、母体と胎児の安全を守るために必要な周産期管理につなげるための重要な情報と考えられています。
卵子提供による妊娠については、一般の体外受精による妊娠と比較して、妊娠高血圧症候群の発症リスクが高いことが海外の研究で報告されています。その背景には、免疫学的要因などが関与している可能性が指摘されています。
近年、40歳以上で卵子提供を検討している方が増加していますが、重要なのは、女性の年齢や既往歴、健康状態などを総合的に踏まえ、起こり得るリスクを理解したうえで検討することです。
妊娠は、誰にとっても身体的負担を伴うものです。高年齢ではその負担が増す可能性があること、卵子提供による妊娠は特有の医学的リスクが示唆されていることを知っておくことは、将来への備えにつながる場合があります。
本サイトでは、卵子提供による妊娠を推奨することも、否定することも目的としていません。医学的事実を知ったうえで、ご自身の健康状態や価値観、支援体制を含めて検討することが大切と考えています。
<参考> 最近の主な論文(多数報告されています)
・Dakota E McCoy , David Haig , Jennifer Kotler(2024)
Egg donation and gestational surrogacy: Pregnancy is riskier with an unrelated embryo
・Pourya Masoudian, Ahmed Nasr, Joseph de Nanassy, et al.(2015)
Oocyte donation pregnancies and the risk of preeclampsia or gestational hypertension: a systematic review and metaanalysis