日本における第三者の配偶子を用いる生殖医療は、1948年に慶應義塾大学病院で提供精子を用いた人工授精(非配偶者間人工授精)が開始されたことに始まります。その後、1978年に英国で体外受精による出産が報告され、生殖医療技術は世界的に普及しました。
提供卵子による治療は1985年頃から海外で実施されるようになり、英国などでは法制度が整備されてきました。英国では、卵子提供を受ける前に、ドナーおよびレシピエント(卵子提供を受けるカップル)の双方が専門のカウンセラーと面談することが制度として求められています。また、精子や卵子の提供者の匿名性は法律によって廃止され、提供者はID化されているため、生まれた子が18歳以上になると提供者を特定できる情報を開示請求できるようになりました。他方、法律で提供者の情報を開示しない国もあります。
このように、卵子提供を認めている国々では、法制度や支援体制、生まれた子への提供者情報の開示などに違いがあります。
一方、日本では1983年に日本産科婦人科学会が「体外受精・胚移植に関する見解」を示し、体外受精・胚移植において第三者の配偶子を用いないことを原則とする自主規制が行われてきました。
その後、「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療」についての検討が進められ、2003年4月には「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」が提出され、一定の条件のもとで第三者配偶子を用いる生殖医療を認める方向性が示されました。
また同年から、第三者配偶子による生殖補助医療によって出生した子の親子関係について、民法の特例を設ける法整備の検討が行われました。その結果、2020年に「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」*1(いわゆる民法特例法)が制定されました。
医学的適応やカウンセリング体制については、2002年度厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)「配偶子・胚提供を含む総合的生殖補助技術のシステム構築に関する研究」(主任研究者:吉村泰典)において具体的な検討が行われ、報告書が提出されています。しかし、第三者の配偶子を用いる生殖医療に関する包括的な法制度は現在も整備されていません。
近年、日本産科婦人科学会は、第三者配偶子によって生まれた子の「出自を知る権利」に関する法整備について、当事者や専門家、国民から広く意見を募り、国への働きかけなどを行っています。2023年1月には「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について―議論すべき課題の抽出―」をテーマとする公開討論会が開催され、同年3月には「生まれてくるこどものための医療(生殖・周産期)に関わる生命倫理について審議・監理・運営する公的プラットフォーム」をテーマとする公開討論会が開催されました。
その後、「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」との検討を経て、2025年には法案が国会に提出されましたが、審議には至りませんでした。
日本産科婦人科学会は現在、法案の改定案を作成し、2026年2月に「特定生殖補助医療に関する公開討論会 ~出自を知る権利を巡って~」をテーマとする公開シンポジウムを開催し、改定案について国民から意見を募集しています。今後の法制度の動向が注目されます。
*1「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00172.html
本文 https://www.moj.go.jp/content/001342904.pdf