生まれた子への告知
第三者が関わる生殖医療によって生まれた子どもが、自分の出自について知りたいと思うことは、自然なことと考えられています。近年、生まれた当事者の団体からは、成人後に初めて事実を知った際に強い衝撃を受けた経験や、アイデンティティに影響を感じたという声も示されています。
国内外の専門学会では、子どもの発達段階に応じて、幼少期から少しずつ事実を伝えていくことが望ましいとする見解が広がっています。日本産科婦人科学会をはじめ、欧州生殖医学会(ESHRE)や英国の研究グループなども、早期からの開かれた対話の重要性を示しています。
また、英国のGolombok氏らの研究では、提供配偶子で生まれた家族において、子どもの心理的適応や親子関係は概ね良好であることが報告されています。一方で、子どもに告知していない家族では、「子どもに気づかれないように」といった緊張やストレスを感じていたという研究報告もあります。
(※研究結果は、研究の対象となった家族の状況を示すものであり、すべての家族に当てはまるものではありません。)
卵子提供によって妊娠・出産した場合でも、子どもを出産し育てる女性がその子の母親であることに変わりはありません。妊娠中に身体を通して命を育み、出産を経験し、日々の養育を担うことは、親子関係を形づくる大切な営みです。遺伝的なつながりの有無のみで母親としての意味が決まるものではないと考えられています。
一方で、卵子を提供してくれたドナーの存在も、子どもにとっては自分の成り立ちの一部です。多くの国や医療機関では匿名での卵子提供が行われており、ドナーの詳細な情報や将来的な面会が難しい場合もあります。そのような状況であっても、「どのようにして生まれてきたのか」という事実を知ることは、子どもが自分自身を理解していくうえで意味をもつ可能性があります。
告知とは、親が子どもに、「あなたとママは遺伝的につながっていない」と伝えることではありません。
むしろ、親が自信をもって「あなたは大切な存在として我が家に迎えられた」という、生まれるまでの「ものがたり」を伝え続けていくことと考えられています。
そして、告知は一度きりの出来事ではなく、子どもの成長に応じて繰り返し伝えていく「テリング(telling)」という考え方が世界的に広がっています。卵子提供を選択する場合、妊娠・出産の前から、「将来どのように伝えていくか」「どのような家族でありたいか」をカップルで十分話し合っておくことが、長期的な家族関係を見据えた準備の一つとなる可能性があります。
子どもに事実を伝えることは、家族として誠実に向き合い続ける姿勢の表れともいえます。日常の中で安心して話し合える関係を築いていくことが、安定した家族形成につながると考えられています。
<生まれた子への告知の推奨、告知した親子の関係について参考>
・日本産科婦人科学会, シンポジウム
「特定生殖補助医療に関する公開講座~出自を知る権利をめぐって~」2026
https://www.jsog.or.jp/medical/11487/
・日本生殖医学会, 倫理委員会報告「提供配偶子を用いる生殖医療についての提言」の改訂,
http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2020_09.html
・JISART(日本生殖補助医療標準化機関), JISARTガイドライン,
https://jisart.jp/guidline/
・ASRM(米国生殖医学会),https://www.asrm.org/
・ESHRE(欧州ヒト生殖・胚学会) https://www.eshre.eu/
・Montuschi, O. (2016).
Telling and Talking about Donor Conception. Donor Conception Network.
・Susan Imrie, Vasanti Jadva, and Susan Golombok (2020)
“Making the Child Mine”: Mothers’ Thoughts and Feelings About the
Mother–Infant Relationship in Egg Donation Families, Journal of Family Psychology.
・Susan Golombok,(2020), We Are Family:The Modern Transformation of Parents and Children(書籍)