生まれた子への告知
1.告知をめぐる考え方の変化
日本における精子提供は、1948年に慶應義塾大学病院で非配偶者間人工授精(AID)が開始されて以来、約80年近い歴史があります。一方、卵子提供は、日本では法整備が十分に整っていないことから、日本産科婦人科学会の会告による自主規制のもとで議論が続いています。
海外では、1978年に英国で体外受精による子どもが誕生して以降、生殖補助医療技術の発展とともに卵子提供が広がり、1980年代半ば頃から世界各国で実施されるようになりました。
こうした生殖医療の初期の時代には、提供された精子や卵子によって生まれた事実は、子どもには伝えない方がよいと考えられることが多くありました。
しかし1993年、英国で「ドナー・コンセプション・ネットワーク(
Donor Conception Network、以下、DCネットワーク)」*1が設立され、子どもに対して出生の経緯をオープンに伝える家族関係を推奨する活動が始まりました。この団体は、提供配偶子によって子どもを授かった親たちによって設立され、子どもの視点を大切にしながら、家族の中での率直な対話を重視する取り組みを続けています。
DCネットワークでは、子どもの発達段階に応じてどのように伝えていくかについてのガイドブックなどが作成され、幼少期から少しずつ事実を伝えていく方法が紹介されています。こうした活動や研究の蓄積により、現在では多くの国や専門学会において、子どもの成長に応じた早期からの告知が望ましいとする考え方が広がっています。
このネットワークは30年以上にわたり活動を続けている国際的にも知られた団体であり、ホームページでは、提供配偶子(精子・卵子)による生殖医療に関するさまざまな情報が紹介されています。また、子どもへの告知を決めることの難しさや、告知後の子どもの反応への不安など、親の気持ちに寄り添った内容も掲載されています。
ホームページは英語で書かれていますが、ブラウザの翻訳機能を利用して日本語で読むこともできます。子どもの年齢に応じたテリング(telling)の方法についてのガイドブックも紹介されていますので、関心のある方は参考としてご覧ください。
<参考>
*1 DCネットワーク 「Telling and Talking」
https://dcnetwork.org/telling-and-talking/
2.告知の前に大切なこと
告知については、「いつ、どのように伝えるか」という点に関心が向きがちですが、実際にはその前提となる親自身の心の整理が大切であるといわれています。
子どもに出生の経緯を伝える際には、どのような言葉でどのように話すかという方法だけでなく、その前提として、親自身が不妊という経験とどのように向き合っているかが重要であると考えられています。
不妊による悲しみや喪失感を十分に受け止め、気持ちを整理できていることが、落ち着いて子どもと向き合うための基盤になるといわれています。
この点について、英国のDCネットワーク(ドナー・コンセプション・ネットワーク)の設立者であるOlivia Montuschiは、著書『Telling and Talking about Donor Conception』の中で、不妊の悲しみが十分に整理されないまま告知を行うと、親の葛藤やコンプレックスが子どもに伝わってしまう可能性があると述べています。そのため、まずは親自身が不妊の経験を受け止めることが、子どもとの対話を進めていくうえで重要な要素になるとされています。